内容証明郵便の上手な利用法③
内容証明郵便の上手な利用法③
内容証明郵便は、次に打つ手を考えながら書かなければ行けません。
内容証明郵便の次の手を考えておく
依頼者「あいつは金を貸してやったのに、一銭も返さないから、内容証明郵便を出してください」
法律家「いいですよ。内容証明郵便を出すだけでいいんですか」
依頼者「内容証明郵便を出せば、支払ってくれるでしょう」
法律家「さあ、どうでしょう」
依頼者「ええ!」
どうやら内容証明郵便を出せば、相手はそれに応ずるものと思い込んでいるのです。
内容証明郵便だけで、いつも事件が解決するなら、苦労もいりません。内容証明郵便に対して何の返事も、何の反応もないことがよくあります。そこを考えないで、内容証明郵便を出しますと失敗することがあります。
内容証明郵便の失敗例
買主「買ったカーテン地について不良品だ」
売主「この程度のキズなら通常許容されるもので、値引きの対象にならない」
買主が支払い拒否、しばらくして売主が下記の内容の内容証明書を出す。
売主「貴社に売り渡したカーテン地の代金(売値三五○万円)をお支払いください。不良品があったとのことですが、それにつきましては値引きいたしますので、お願いいたします」
この内容証明郵便を出したあと、買主が支払わないときにはどうするつもりなのでしょう。支払わなければ訴訟を起こさなければなりません。訴訟に持ち込んだとき、こんな内容証明郵便が相手の手にあると、不良品を認めたという証拠に使われ、はじめから相当減額されてしまいます。
内容証明郵便は、次に打つ手を考えながら書かなければ行けません。
内容証明を出す場合、まずトラブルの経過を辿り、調査し、証拠となりうる書類をみた上で、この問題をどういう方向で解決するのがよいか考えます。
話合いで解決できそうだ、あるいは話合いの方がよさそうだという場合は、内容証明郵便を出します。
内容証明郵便ではなく、すぐ仮差押えをして財産を押さえておく方がよいケース
証拠がちゃんとしているときは、訴訟をすぐに起こすケースもあります。話合いで解決するのがよい場合でも、第三者が仲に入った方が解決しやすいときは、調停を申し立てます。
内容証明郵便を出す場合でも、もし内容証明郵便に応じてくれないときはどうするか考えておきます。ダメなら、訴訟を起こすとか、調停を起こすとか、出かけて行って直接交渉するとかというようにです。そして、内容証明郵便を書くときにも、次の手を打つのに障害にならないような書き方をします。
内容証明郵便を出してはいけないとき
内容証明郵便を利用するのは、将来トラブルが発生するのを防ぐためや、現に発生しているトラブルを解決するためです。
債権をある人に譲渡したことを通知するのに内容証明郵便を使うのは、ほかにも債権を譲り受けたという人が登場したとき、先に譲り受けたのはこっちだと主張するため、つまり将来のトラブルを防ぐためです
。
金銭の請求、建物の明渡し要求、契約の解除の通知等に内容証明郵便を使うのは、現に発生しているトラブルを解決するためです。
そして内容証明郵便は、後者、つまりすでに発生しているトラブルを解決する一つの手段として利用するケースが多いのです。
しかし、すべてのトラブルに、内容証明郵便が有効に働くわけではありません。むしろ内容証明郵便を出してはいけないときがあります。それは、次の場合です。
相手に誠意がみられるとき
借りた金を一度に支払えないけれど、毎月五万円ずつ返済するから、それでお願いします、あるいは二か月後にまとめて支払いますからそれまで待ってくださいといってきているときに、あらためて内容証明郵便を出してはいけません。相手がせっかくその気になって返済しようとしているときに内容証明郵便を出すと、水をさすことになります。感情を害し、素直に支払ってもらえません。裁判を余儀なくされるかもしれません。
相手が誠意を示しているときは、本来の約束より多少不利な解決案でも、内容証明郵便を出したりせず、相手の案にのり、解決する方が、裁判などしなくてすみ得策です。相手の案を承諾するときには、その案を相手に文書化させ、後々の証拠にします。
もっとも、この次、この次と解決を引き延ばす口先だけの人には、内容証明郵便や訴訟でガツンとやるべきです。
トラブル解決後も親しくつきあいたいとき
交通事故の加害者と被害者との間は、損害賠償の問題があるだけです。それが解決すれば、その後に加害者と被害者がつきあうことはありません。内容証明郵便でどんなに激しくやりあっても、また訴訟で最高裁まで争っても、後くされはありません。しかし肉親、隣り近所の人、職場の上司、同僚その他親しい関係の人とのトラブルになるとやっかいです。そのトラブルが解決したあとも、つきあわないわけにはいきませんから、上手に解決しないと大変です。
たとえば、貸した金を返さないので内容証明郵便で請求したとします。貸主は約束を守らないから当り前と思っても、相手の方では、今までこんなに親しくつきあってきたのに、戦争をしかけてくるのは非常識だといって、金を返したあとでも、従来のような親しい関係には戻りません。
また肉親、近隣の人、職場の人というのは、お互い迷惑をかけたり、かけられたりしますので、何か別の機会に大きな仕返しをされないとも限りません。
これからも今までどおりのつきあいをしていきたい、あるいはしなければならない人に対しては、内容証明郵便を出したり、訴訟を起こしたりせず、ねばり強く話合いで解決すべきです。
こちらに弱味があるとき
相手が一方的に悪いと思っていたケースでも、トラブルの原因をよく調べると、こちらに大きな弱味のあることがあります。たとえば売掛金が未回収であるけれど、すでに時効が完成しているとか、不良品であるとかです。
こういう場合には、売掛金請求を内容証明郵便で出すのは控えるか、出すとしても注意を要します。うかつに内容証明郵便を出すと、相手は身構え、弁護士を頼んだり、こちらの弱点に気づかれたりで、ヤブヘビのことがあります。
内容証明郵便など出さないで、相手を警戒させず、平和狸に交渉を進め、ある程度譲歩してでも話をまとめます。そしてまとまったら、ただちに文書にして取りかわすことです。
相手が倒産しそうなとき
相手が倒産しそうな場合、売掛金を支払えとか、貸した金を返せと内容証明郵便で請求していたら、相手は急いで財産を隠したり、夜逃げしてしまいます。内容証明郵便など出さず、ただちに相手の財産に仮差押えをして、財産を隠したり、売却できないようにすべきです。
相手が不渡りのとき
手形を取立てにまわし、不渡り担って戻ってきたときは、内容証明郵便を出しても、ほとんど効果はありません。
振出人が手形を不渡りにするのは、契約不履行とか、詐欺その他それなりの理由があると判断しているか、または金がなくて倒産を覚悟したときです。
したがって、内容証明郵便が来たぐらいでは支払をしません。もっと強い手段が必要です。
振出人が契約不履行等の資金不足以外で不渡りにした場合には、手形交換所に供託金をつんでいます(正確には振出人が支払銀行に金を預託し、支払銀行がそれを交換所に提供しています)。急いで、この金を仮差押えします。
交換所に供託していない場合には、ほかの財産を仮差押えします。
とにかく仮差押え、訴訟、強制執行、破産申立て等の強硬手段をとらないと解決しません。
内容証明郵便が相手に届かないとき
契約を解除しようとするときは「契約を解除します」という意思表示をしなければなりません。賃料を値上げするときは「賃料を○月○日より金○○○円に値上げします」という意思表示をしなければなりません。
そして、意思表示は相手に届かなければ効果がありません(民法九七条一項)。
普通郵便で契約解除の通知を出すと、郵便配達人はそれを相手の家の郵便受けにポンと入れておくだけですから、差出人はその通知が本当に相手に届いたかどうかわかりません。内容証明郵便で出した場合には、郵便配達人は、郵便受けに入れっ放しにせず、受取人に直接渡し、受取人から受取印をもらう方法で配達します。したがって、差出人はその内容証明郵便がいつ配達されたかを、郵便局で証明してもらえます。
そのため契約解除、賃料増額請求、債権譲渡の通知、相殺の通知、借家契約の更新拒絶の通知、時効中断のための請求、抵当権実行の通知等、その意思表示が相手に届いたことを証明できないと困るような重要な通知は、必ず内容証明郵便で出します。
ところが内容証明郵便で出しても、相手に届かないことがあるのです。
受取り拒絶
相手に届かない第一のケースは、相手が受取りを拒否した場合です。配達された郵便物の受取りをことわることができるのです。その場合には、差出人のもとに、名宛人が受取りを拒否しましたのでと書いた紙きれがついて、内容証明郵便が戻ってきてしまいます。
配達したのに受取り拒否された場合には、相手は手紙の中味を見ていないわけですが、法律的にはその通知は相手に到達したということになっています。意思表示は相手に到達したときから効力を生ずるといいましたが、その場合の「到達」というのは、相手が現実に通知した中味を見たときではなく、常識的にみて、相手がその通知を知りうる状態になればよいということになっています。受取り拒絶は、まさにその通知を知ろうとすればできる状態になっていますから、到達したといえるのです。
名宛人本人が受け取らずに、妻や同居人が受け取った場合にも、やはりそのとき到達したことになります。ですから、妻や同居人が受取りを拒絶したのと同じ扱いです。
したがって受取り拒絶で戻ってきても、契約解除、賃料増額、相殺等の効果はちゃんと生じますから、心配ありません。
留守で配達されない場合
相手が留守のため配達されないで戻ってくることがあります。
普通郵便ですと、相手が留守でも郵便受けに放り込んで終わりです。しかし、内容証明郵便は相手に渡し、受領印をもらわなければいけませんから、留守ですと郵便配達人は配達できません。
その内容証明郵便を郵便局に持ち帰りますが、そのとき留守宅に、あなた宛ての書留郵便を配達しましたが、留守なので、郵便局で保管していますから、七日以内に取りに来てくださいと書いた手紙を置いて行きます。その人が郵便局へ取りに行けば問題はありません。ところが、この紙を見たのに取りに行かないときが困るのです。
郵便局では七日間待って取りに来ないと、その内容証明郵便に「○月○日配達の際不在でした。不在のため郵便局に保管しましたが、保管期間を経過しましたので、お返しします」と書いた紙をはりつけて、差出人に戻してしまいます(郵便規則一○条)。
この場合には、その通知は相手に届いたことにはなりません。届かなければ、契約を解除したことにも、賃料を値上げしたことにもなりません。
世の中には、書留郵便でくるのは、どうせろくな手紙ではないと郵便局へ取りに行かないひねくれ者がいて、苦労することがあります。こういうときには、直接相手に会って口頭で伝えるか、あるいは文書に書いて直接手渡すしかありません。
相手に会うときは、将来、立ち会った人が裁判にでもなったら証人になれるよう、二人以上で行くことが望まれます。また、文書を渡すときには、文書の受領証をもらうようにします。
契約解除、賃料増額、債権譲渡、相殺等のように通知したことを証拠に残しておく必要があるときは、届かなければいけませんから、以上のようなやり方をします。
しかし貸金請求や売掛金請求のように、相手に対し心理的圧力をかけ、トラブルを有利に解決するために内容証明郵便で出したのに、受取り拒絶や留守のために届かないというときには、内容証明郵便のコピーを普通郵便で送ったらよいと思います。
受取り拒絶や留守ということは、相手がそこに居住していることを意味します。これを普通郵便で出すと、確実に届いたという証拠は残りませんが、相手に届くことはまず間違いないでしょう。それにコピーでも、相手は差出人が「内容証明郵便」を出したことはわかります。こちらの宣戦布告の決意は伝わりますから、コピーでもそれなりの効果はあります。
居所不明のとき
相手が倒産した場合等には、こちらから出した内容証明郵便が転居先不明で戻ってくることがあります。蒸発した場合等です。
相手の居所がわからないから、契約解除できない、債権譲渡ができない、相殺できないとなったら大変です。
法律は抜け目がありません。そんなときの対応策を用意しております。公示送達という方法です(民法九七条ノ二)。
公示送達とは
まず、こういう意思表示をしたいけれど相手の居所がわからないから、公示送達の手続きをしてほしいと、相手が最後に居住していた場所(住所地)の簡易裁判所に申し立てます。裁判所が、なるほど相手の居所がわからないのは本当だと判断すれば、公示送達を許可しようということになります。
次に裁判所は、送達すべき書類を保管しているから、いつでも渡しますということを裁判所の掲示板に掲示し、それを官報や新聞に少なくとも一回掲載します。ただし、裁判所が相当と認めるときは、官報や新聞に掲載するかわりに、市区町村役場等の掲示場に掲示すればよいことになっています。そこで、実際には、官報や新聞にのせるかわりに、市区町村役場の掲示場に掲示することが多いようです。
そして、最後に官報または新聞にのせた日、もし官報等にのせない場合は掲示を始めた日から二週間経過したときに、その意思表示は相手に到達したものとみなされます。相手がそれを見てようと見ていまいと関係なく、その効果が生じます。
いくら捜し回っても相手の居所が不明なときには、やっかいでも公示送達の方法をとるしかありません。